今回は「テシオコザクラ」をご紹介したいと思います。
北海道で見られる唯一の白い花を咲かせるプリムラですが、自生地が限られているので、ほとんど目にする機会のないサクラソウの1種です。
テシオコザクラとは
名称:テシオコザクラ(天塩小桜)
学名:Primula takedana
分類:サクラソウ科サクラソウ属
北海道北部の蛇紋岩地帯に分布する、北海道固有種です。
花期は5月~6月。
サクラソウの仲間はどれも似たような花を付けますが、本種だけは見た目も他のサクラソウとは異なります。
葉こそヒダカイワザクラに似ていますが、花はラッパ型(漏斗状)になり、北海道に自生するサクラソウでは唯一の白花です。
テシオコザクラの分布
北海道道北の、「幌延町(ほろのべちょう)」、「中頓別町(なかとんべつちょう)」、「音威子府村(おといねっぷむら)」の、蛇紋岩地帯に分布しています。
希少種の為、詳細な場所は明かせませんが、幌延町で実施されている観察会に参加するのが1番確実でしょう。
ちなみに、今回の記事で使用した写真は全て中頓別町で撮影したものです。
名前の由来
天塩郡幌延町にある北大天塩演習林内で見つかった事が名前の由来となっています。
こちらの自生地は今もしっかり保護されており、幌延町による「テシオコザクラ」観察会が年に1度実施されています。
また学名の「takedana」は、日本のサクラソウ属の権威「武田久吉(たけだひさよし)」に献名されたものです。
献名(けんめい)とは生物の命名に際して特定の人物の名前を織り込むこと。
生物の種を記載し学名を命名するのにあたり、命名者が特定の人物に敬意を表して名前を織り込む慣行がある。
テシオコザクラの特徴
太い地下茎から葉と花茎を立ち上げ、高さは15㎝~20㎝ほど。
花は普通2~3個つきます。
喉部は黄色で、花は平開せずラッパ型(漏斗状)なのがとても特徴的です。
他のサクラソウ属の花と同様に、花冠裂片は5裂し、さらに2裂します。
花茎(かけい)と花柄(かへい)には長軟毛(ちょうなんもう)があります。
固体差もありましたが、筒部の黄色っぽいストライプ模様が素敵でした。
花が開く前の蕾の状態です。
花茎が長く、思ったより高さがある印象です。
右手前に見切れているスミレは「アポイタチツボスミレ」。
どちらも蛇紋岩地帯に咲くお花です。
花は2個から3個つける個体がほとんど大半を占めています。
数は少ないですが、花を4個つけている個体もありました。
花は片側に寄ってつくようです。
観察した中頓別の群生地では、花を5個つけた個体を1株だけ見つけました。
次はテシオコザクラの葉を見て行きましょう。
こちらは開きたての葉の様子。
太い地下茎から、複数個の葉を立ち上げます。
テシオコザクラの葉は、裏面がとても毛深くて特徴的です。
葉柄(ようへい)と葉の裏面には長軟毛(ちょうなんもう)が良く目立ちます。
葉の表面にはあまり目立ちませんが、短毛(たんもう)があります。
また別個体でも見て行きましょう。
葉柄と葉の接合部が特に毛が濃いのが面白いです。
葉柄は赤茶色ですが、葉の付け根付近は黄緑色になっています。
こちらはわりと大きめの葉。
先ほどの個体にあった葉の表面の短毛は、ほとんど確認出来ないほどです。
また葉の裏の長軟毛がはみ出して見えるのが良く目立ちますね。
葉は腎円形(じんえんけい)で、縁に不揃いな二重の大きな切れ込みがあります。
先ほどの写真をアップで見てみます。
やはり、葉の表面の短毛はあまり目立たなくなっています。
テシオコザクラは上記のような「蛇紋岩の崩壊地」の斜面に咲いています。
わりと湿り気のある粘土質のような土壌でした。
湿性崩壊地を好むようです。
斜面一面に咲く「テシオコザクラ」はとても見ごたえがありました。
分布が限られているお花なので、これからも頑張って生き残ってほしいです。
長花柱花と短花柱花
テシオコザクラを含むサクラソウ属の花は、異形花柱花(いけいかちゅうか)として知られ、長花柱花(ちょうかちゅうか)と短花柱花(たんかちゅうか)の2つの型があります。
- 長花柱花(Pin型)は、雌しべが長く、雄しべが短い
- 短花柱花(Thrum型)は、雌しべが短く、雄しべが長い
テシオコザクラの長花柱花です。
雌しべの柱頭が出っ張っているのが確認出来ます。
長花柱花の雄しべは短く、奥の方にあるのが見えます。
テシオコザクラの短花柱花です。
先ほど見えていた雌しべの柱頭が、喉部の奥の方へ引っ込んだ位置に見えています。
短花柱花は雄しべが長く、先ほどの個体と比べて前の方へ出ているのが分かると思います。
北海道のサクラソウ属の花
北海道には以下の9種のサクラソウ属の花が分布しています。
- サクラソウ
- オオサクラソウ
- クリンソウ
- ヒダカイワザクラ
- テシオコザクラ
- エゾコザクラ
- ソラチコザクラ
- ユキワリコザクラ
- ユウバリコザクラ
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