北海道では長い冬が終わると、雪解けを待ちわびたように、色とりどりの山野草が咲き始めます。
その中でも、『スプリング・エフェメラル(春植物)』と呼ばれる草花たちがいます。
今回は、北海道のスプリング・エフェメラルについてご紹介いたします。
もくじ
スプリング・エフェメラルとは?
主に落葉樹林で、春先の木々が芽吹く前に花をつけ、林内が暗くなる夏には葉を落とし、あとは地中で過ごす、という特徴を持っています。
英語で、スプリング(春)、エフェメラル(はかないもの)、といった意味で、春植物、春の妖精とも呼ばれています。
この生き方は非常に戦略的で、以下のようなメリットがあります。
・落葉樹林の芽吹く前の林床はとても明るく、効率よく光合成できる。
・虫媒花(虫に受粉を助けてもらう種)にとっては、花をつけているライバルが少ない。
・木々の葉が生い茂り、林床が暗くなる夏には、光合成効率が悪くなるので地上部を枯らして、エネルギー消費を節約できる。
似たような分類で、以下のようなものもあります。これらもそれぞれの環境で、短い期間でライフサイクルを終えるエフェメラル達です。
・デザート(砂漠)・エフェメラル(はかないもの)
・マッドフラッド(干潟)・エフェメラル(はかないもの)
・ウィディー(雑草)・エフェメラル(はかないもの)
北海道で見られる代表的な種類
フクジュソウ
北海道にはフクジュソウと、キタミフクジュソウの2種類が自生しています。
スプリング・エフェメラル(春植物)の戦略といった視点で見ると、以下のような性質を持っています。
・花、葉、地上茎が太陽光の動きに合わせて動く、『向日性』を持っている。
・パラボラアンテナのような形の花びらを持つことで、太陽光の熱を中心部に効率よく集める事ができ、外気温より花びら内の方が暖かい。
フクジュソウの花粉を運んでくれるハエやアブなどの仲間は、春の外気温の低い時期は、体温が上げれず、活動が鈍くなります。そこでフクジュソウは花びらにとまった虫達に熱と花粉を報酬として与え、結果、虫達の体温を上げる事で受粉を手伝ってもらう作戦を取っています。
カタクリ
スプリング・エフェメラルの中でも、ピンクの花色で、大群落が各地で見られ人気のある花です。
早春に咲き、地上に姿を現すのは1~2ヶ月ほどで、特に群落の見頃は2週間程度といったところでしょうか。
あっという間に咲き終わり、地上部は枯れてしまうので、とても生き急いでいるように見えるカタクリですが、実は発芽してから花をつけるまでは約8年ほどかかる、ゆっくりとした一面も持っています。
エゾエンゴサク
変異の多い花で、小葉の形が線形から卵形まで様々。花の色も多様で青、白、桃、淡紫、恋紫などいろいろなものがあります。
北海道では春のドライブ中に路肩や林縁で群生している姿も良く見られます。
毒草の多いケシ科の中でめずらしく食用になり、さっと茹でて食べるエゾエンゴサクのお浸しは花ごと食べられて、彩りが良く味も癖が無い、春にイチオシの山菜となります。
キクザキイチゲ
変異の多い多年草で、花色は白色~紫青色、花びらのように見えるがく片は5枚~17枚と様々なタイプがあります。
北海道には『ピップイチゲ』、『ハナガサイチゲ』といった品種や、近似種の『ウラホロイチゲ』が自生しています。
アズマイチゲ
キクザキイチゲに良く似ていますが、葉の切れ込みが浅く、やや垂れ下がる事で見分ける事が出来ます。
またキクザキイチゲの花色は白と紫の2種類がありますが、アズマイチゲは白花しかありません。
ニリンソウ
変異が多い花で、上記の写真のがく片が緑色の『ミドリニリンソウ』や、八重咲の『ギンサカズキイチゲ』や、がく片が赤味が入る『ウスベニニリンソウ』などの品種があります。
山菜としても食べられますが、若葉がトリカブトに非常に良く似ているので、春の芽生えの時期は誤食するリスクがあります。
またニリンソウはキンポウゲ科の毒、プロトアネモニンという皮膚や粘膜に対して刺激性を持つ毒が含まれているので、食べる際は加熱処理が必要です。
キバナノアマナ
北海道では低地~山地の日当たりのいい場所に咲きます。過去に、三重県の鈴鹿山脈の稜線上に咲いていたときは少しカルチャーショックを受けました。
その他、エゾヒメアマナ(道北・道東)やヒメアマナ(渡島・胆振・日高)といった別種も自生しています。
ナニワズ
別名は『エゾオニシバリ』や『ナツボウズ』で、本種はオニシバリの亜種ですが、北海道ではオニバシリが自生していないので、見間違う心配がありません。
ナツボウズは夏に落葉することからついた名前で、スプリング・エフェメラルの特徴を表しています。
エンレイソウ属
ひし形の葉が3枚輪生する姿がとても特徴的で、北海道には雑種を含む様々なエンレイソウが自生しています。
葉も3枚、がく片も3枚、花片も3枚(無い種もあり)、雄蕊は6つ(3の倍数)と、異様に『3』にこだわりを持っている気がしてなりません。
ショウジョウバカマ
大雪山暮らしが長かった私にとっては、雪解けと同時に咲き始めるショウジョウバカマが春の訪れを1番に伝えてくれる花でした。
定義があいまいなスプリング・エフェメラル(春植物)で、この花は夏以降も地上部を枯らさないので、少し例外的となります。
北海道で見られるおすすめ群生地
スプリング・エフェメラルは原生林の中といった場所より、里山や神社の境内、公園など人の手が加わった場所で群生地となる傾向があります。
笹などの背丈の高い雑草で、林床が暗くなるような場所では生育出来ない為です。
特に、スプリング・エフェメラルの中でも見ごたえのあるカタクリの群生地をご紹介いたします。
三笠山自然公園(和寒町)
突哨山(旭川市-比布町)
丸山公園(深川市)
浦臼神社(浦臼町)
車は神社の北西にある『いこいの森公園』の駐車場を利用しましょう。
神社の境内に見事なエゾエンゴサクとカタクリの群落が広がり、また近年はエゾリスとお花畑の撮影が出来る事から休日には大勢のカメラマンが訪れる人気スポットとなっています。
シリパ山(余市町)
余市町のシリパ岬にある山で、トレイルの南西斜面~西斜面ではカタクリの群落が見られます。
登山道を歩くので、歩きやすい装備で行きましょう。
真駒内公園(札幌市)
真駒内公園の南端にカタクリの群生地があります。公園の入口から遠いですが、見頃の時期には斜面いっぱいに広がる花々を楽しむことが出来るので、行く価値アリです。
標高差50m程の山道の登りがありますので、歩きやすい靴がおすすめです。
桜ヶ丘公園(ニセコ町)
駅前の好立地で、広くないので気軽に立ち寄る事ができます。
小さい公園ながら、斜面いっぱいに咲く群落はなかなかの見ごたえがあります。
菩提院 奥の院(黒松内町)
人が少なく、とてもお気に入りの場所です。
観光の途中に気軽に立ち寄れる場所です。
最後にお願い
植物の観察マナーを守りましょう。
・特にカメラで撮影する人は、柵の中に立ち入ったり、枝を折ったりなどはマナー違反です。
・植物の盗掘はもってのほかです。見つけたら注意しましょう。
・ゴミや他の植物の種などを持ち込まないようにしましょう。
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