自然観察・コラム

大雪山の気候・天気について登山ガイドが解説

今回は、大雪山の気候・天気について解説していきたいと思います。

ガイドとして何度も歩いた地域ですが、気象条件は本州の山々に比べると、その違いも大きく感じます。

また北海道の山は気象遭難も多く発生しているので、大雪山の登山に来る方は、ぜひ予習しておきましょう!

大雪山の気候 概要

まず最初に、大雪山の気候概要についてまとめてみました。

・大雪山の山々は2,000m前後の高さですが、緯度が高いため、アラスカ中部、本州の3000m級の山岳と同じような気象条件と言われています。

・亜寒帯湿潤気候と内陸型の気候
⇒夏・冬の温度差が大きい
⇒昼・夜の温度差が大きい
⇒シベリア気団、オホーツク海気団の影響による寒冷・強風の不安定な天候が多い

夏は7月・8月しかない
⇒大雪山で夏と言えるのは、結氷や降雪が無いのはわずか2ヶ月間のみ。
※例外的に、2018年8月17日に黒岳で初雪が降った。
北極圏に属するシベリアやアラスカに近い気候

・初雪は例年9月中旬頃
まれに早かったり遅かったりすると年もありますが、初雪が大雪になる場合もあるので、秋の登山は要注意です。

以上を読んでわかる事ですが、とにかく大雪山は寒いです。

夏は気温が高くなることもありますが、夜は冷え込み、また不安定な気候と強風が相まって、夏山でも低体温症による死亡事故があります。

特に本州からお越しの方は、低体温の対策はしっかりとしていただきたいと思います。

2019年9月20日十勝岳の遭難・死亡事故について考える019年9月20日、残念なことに十勝岳で男性が遭難し、翌日救助されましたが残念ながら死亡事故になってしまいました。 北海道の山では今回のような事故が、たびたび発生している印象です。 本州から北海道の山へお越しになる方への注意喚起の意味も含め、今回の事故を考察してみる事にしまし...

知れば納得の、世界有数の強風地帯

結論:ジェット気流の所為

冬季の日本は、世界的一の強風地帯といっても過言ではありません。

その理由は、冬の偏西風(ジェット気流)が、日本上空で収れん(集まる)するためだと言われています。

ジェット気流は高度10,000m付近の風ですが、日本の山の高度2,000~3,000m付近でもジェット気流の強風の影響は表れています。

高度3,000m付近の冬の平均風速は21mにもなり、最大瞬間風速にするとその2~3倍にもなります。

出典:700hPa(mb)面における地衡風の強さ(m/秒)(Heastie,H.&Stephanson, P.M.,1960,小泉武栄,1984)

上の画像は、高度3000m付近の風の強さの図です。

日本付近は特に風が強く、熱帯地域などの南側の風は弱くなっています。

今度はWINDY(ウィンディー)で、ジェット気流の主軸となる、高度10,000m付近の風を視覚化してみました。

2019年12月2日のデータですが、日本列島は特に風が強くなっているのが、一目瞭然です。

【Windy】登山ガイドがおすすめする天気予報サイト登山の際に1番気になるのはやっぱり当日の天気です。 どんな山でも天気次第で、山の表情はガラッと変わります。快晴無風の優しい山行のこ...

なぜ大雪山の自然景観が美しいか

大雪山は他の日本の山々に比べても、トップクラスで美しい景観を持っています。

大規模なお花畑があり、池塘(ちとう)や、風衝地(ふうしょうち)の植物、雪田、ハイマツ帯などが、混ざり合った、世界でもまれな風景が広がっています。

なぜそのような地形・風景が出来上がったのでしょうか?

結論:山頂現象と適度な標高

『山頂現象』とは?
冬季に風が山を吹き越える際に、『吹きさらし』と『吹き溜まり』が出来る事により生まれる、植物分布の異常のことです。

こちらは紅葉期の大雪山黒岳ですが、山頂現象を知っているとこのような見方が出来ます。

植物の生える場所は、積雪によって左右されていると言っても過言ではありません。

積雪内部は、雪の断熱効果により土壌気温はほぼ0℃に保たれます。

そのため世界有数の強風地帯でも、植物達は雪に埋もれてしまえさえすれば、快適に過ごすことが出来ます。

逆に山頂付近の風衝地に生える、ガンコウラン、ミネズオウ、ウラシマツツジなどの高山植物は、強風と低温に晒される場所での優位を勝ち取った、ニッチ戦略をとった植物といった見方も出来ます。

3月の黒岳山頂

大雪山のお花畑は1700m前後のなだらかな地形が多いですが、あと1000m高くても、低くてもこのような広大なお花畑群落は形成しなかったと言われています。

ヒマラヤ山脈のように高すぎると、もはや山頂現象は発生しないし、低すぎてもダメです。

『チングルマ』花も紅葉も美しい天空のお花畑チングルマは亜高山~高山の湿地やれき地に生える草状の落葉低木で、北海道の山では良く見られる代表的な高山植物です。 特に群落状になる...

まとめ

大雪山の夏は短く、冬季は世界有数の強風地帯となっています。

登山で大雪山に登るなら、気象チェックをまず一番にしましょう。

御覧いただきまして、ありがとうございました。

【ランキングに参加しています。面白かったらクリックお願いします!】

登山・キャンプランキング

>
登山・ハイキング倶楽部

登山・ハイキング倶楽部では、登山ガイド・森林インストラクターの橋本竜平がご案内する、会員制のガイドツアーを実施しております。

顔が見える範囲の少人数制で、自然を楽しみながら歩くことを目的として立ち上げた倶楽部です。

もしよろしければ、一緒に山歩きを楽しんでみませんか?

ツアースケジュールを確認する 

プライベートガイドを依頼する 

こんな記事もおすすめ
自然観察・コラム

『チングルマ』花も紅葉も美しい天空のお花畑

2019年6月23日
Sapporo Nature Times ‐ 札幌ネイチャータイムズ
チングルマは亜高山~高山の湿地やれき地に生える草状の落葉低木で、北海道の山では良く見られる代表的な高山植物です。 特に群落状になることも多く、大変見ごたえのある高山植物の代表 …
自然観察・コラム

雪崩の生存率がどれぐらいか知っていますか?

2019年12月13日
Sapporo Nature Times ‐ 札幌ネイチャータイムズ
雪崩の死因 雪崩に巻き込まれた際の死因は、ほとんどが窒息死と外傷です。 特に、窒息は全体の約7割を占め、その他約3割が外傷、低体温症は数%未満になります。 つまり雪崩 …