令和2年度は記録的な小雪シーズンとなりましたが、雪崩による死亡事故が続いてしまいました。
今回の記事では注意喚起と事故の記録のため、雪崩の事故事例ご紹介していきたいと思います。
2020年1月30日 【北海道】トマムスキー場の雪崩事故
上川の占冠村にあるトマムスキー場の周辺で雪崩が起きフランス人8人が遭難した事故で、警察は31日朝、現場にとどまっていた38歳のフランス人男性1人を見つけましたが、心肺停止の状態だということです。
30日午後3時半ごろ、占冠村にあるトマムスキー場の周辺で雪崩が起き、スキー場のコース外を滑る「バックカントリースキー」をしていたフランス人の男女8人が遭難しました。
7人は自力で下山して無事でしたが、38歳の男性1人が現場にとどまっていたことから、警察は31日午前7時前に救助に向かいました。
そして、午前7時45分ごろ、現場近くで男性があおむけで倒れているのを見つけたということです。
警察によりますと、男性に目立った外傷はないものの心肺停止の状態だということです。
8人は今月25日に観光目的で来日し、30日は午前中からトマムスキー場のコースを滑っていましたが、昼ごろからコースを外れて滑っていたということで、警察が詳しいいきさつを聞いています。
雪崩が起きた当時、占冠村では雪崩注意報は出ていなかったものの、平年よりもやや高い気温だったということです。出典:NHK NEWS web
この事故に関しては、雪氷災害調査チームのレポートに調査結果が詳しく載っているので、気になる方は御覧ください。
別リンク:トマムスキー場雪崩調査
トマムの友人から、その日は気温が高く湿った雪が40㎝ほど積もっていたとの情報もありました。(アメダスの幾寅のデータは15㎝ほどの降雪でしたが)
また事故現場の三角沢(サンカクザワ)は、斜度が40度程度で、雪面が破断しやすいノール地形だったようです。
今回は同行した仲間によって10分後に掘り出されましたが、現場から搬送出来ず、雪洞を掘ってその中に要救助者を残し、他の7名はその日のうちに下山しました。
翌日の早朝から現場に救助に行くも、心肺停止の状態で発見されたそうです。
データ上では15分以内の掘り出しで、約9割の生存率(窒息死の場合)なのですが、不幸な事故となってしまいました。
2020年2月1日 【長野県】乗鞍岳の雪崩事故
1日、長野県松本市の北アルプス乗鞍岳でスノーボードをしていた名古屋市の47歳の男性が雪崩に巻き込まれ、搬送先の病院で死亡が確認されました。
1日午後0時半すぎ、長野県松本市の北アルプスの乗鞍岳で雪崩が発生し、スノーボードをしていた男性1人が巻き込まれたと消防に通報がありました。
男性は救助要請を受けた山梨県の防災ヘリコプターで救助され、近くの病院に運ばれましたが、まもなく死亡が確認されました。
出典:NHK NEWS web
こちらは日本雪崩ネットワークさんから調査の速報が出ましたので、ご確認下さい。
別リンク:【調査速報】200201乗鞍岳・雪崩事故
同行者2名によって約15分で掘り出されるも、意識不明で、その後死亡が確認されました。
埋没深約3mをたった2人で、約15分で掘り出したのは、かなり早い方だと思うのですが残念な事故になってしまいました。
2020年2月1日 【北海道】敏音知岳の雪崩事故
北海道と長野県で1日、山の斜面でスキーやスノーボードをしていた男性2人が雪崩に巻き込まれ、死亡した。北海道では1月30日にも雪崩で男性が亡くなっている。いずれも「バックカントリー」と呼ばれる圧雪されていない斜面を滑走しており、警察や専門家などが雪崩への注意を呼びかけている。
1日午前11時40分頃、北海道中頓別(なかとんべつ)町のピンネシリ岳(703メートル)で、「雪崩に巻き込まれた人がいる」と目撃した男性から119番があった。道の防災ヘリが約3時間後、英国人の弁護士バーナビー・アイザック・レビーさん(34)を救出したが、搬送先の病院で死亡が確認された。
出典:msnニュース
敏音知岳(ぴんねしりだけ)は、北海道の中頓別町にある山で、道の駅から登れるアクセスの良さもあって、近年バックカントリーで滑る方が増えている山でした。
1月30日から2月1日にかけて、オホーツク地域は大雪となって、大量の積雪が積もっている状況でした。
出典:札幌管区気象台
上のグラフを見てもらうと、1日に40㎝以上も積もったのが見てわかると思います。
短期間に大量の降雪があったので、表層雪崩が起きやすい状況だったのが推測出来ます。
札幌管区気象台は北海道内の積雪量や降雪量のデータをグラフにしてくれてるので、いつも参考にさせてもらっています。
バックカントリーで滑る際には、現場での積雪状況の判断と事前のデータ収集が不可欠です。
別リンク:札幌管区気象台
気象庁のデータを見ると、事故のあった2月1日の前日(31日)と前々日(30日)は、大量の降雪と、注目すべきは風速の強さです。
慣れないと見ずらいのですが、「最大風速」は10分間の平均風速の最大値、「最大瞬間風速」は瞬間風速の最大値となっています。
おそらく風によってデータ以上の大量の降雪が、南斜面には吹き溜まっていたのではないかと推測出来ます。
また28日は日照時間も長く、寒暖差がかなり大きいので、日射の影響を受けやすい南斜面は融解と凍結を繰り返して、サンクラスト(太陽熱によって雪面の表面上が溶け、気温が下がった際に再び凍り氷化すること)していたのではないかと思います。
サンクラストは雪崩のすべり面として働く場合や、その下にしもざらめ雪(顕著な弱層になる雪質)が急成長する場合があります。
ニュース記事では南斜面と出ているので、おそらく上の画像の赤丸で囲った斜面のどこかだと思いますが、こちらも詳細な調査データが公表されるのを待ちたいと思います。
【2月6日追記】
雪氷災害調査チームのレポートに調査結果が掲載されたので、ご確認下さい。
別リンク:敏音知岳(ピンネシリ)雪崩調査
まとめ
北海道では、2017年の「ニセコ春の滝」以来の死亡事故となってしまいました。
近年は雪崩トランシーバーや雪崩エアバックを持っているからといって、リスクの高い状況や危ない地形でも滑る方が増えているように思います。
あくまで道具は生存率を上げるだけであって、基本は雪崩に巻き込まれないように気象判断、状況判断しなければなりません。
小雪シーズンですが、これ以上の事故が無いように願っています。
アイキャッチ画像出典:Hans BraxmeierによるPixabayからの画像
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