自然観察・コラム

富士山と愛別岳の滑落事故から考える、晩秋・初冬登山のリスク

令和元年の晩秋・初冬ですが、高山の山の上では雪が積もり始め、滑落の事故がいくつか報道されました。

今回は2件の事故事例の紹介と、この時期特有の登山リスクについて解説したいと思います。

事故事例紹介

2019年10月28日の富士山滑落事故

※注意:動画はわりとショッキングな映像なので、御覧になりたい方だけ見てください。

インターネットで動画をライブ配信中の男性が富士山から滑落した恐れがあるとして、静岡県警御殿場署が捜索していたが、同署は30日、山岳救助隊が須走口の7合目付近(標高約3千メートル)で性別不明の遺体を発見したと発表した。同署は遺体が捜索していた男性の可能性があるとみて、身元の確認を急いでいる。
 同署によると、男性は動画配信サービス「ニコニコ生放送」で動画をライブ配信しており、動画には男性が滑落する様子が写っていた。視聴した人から28日午後3時35分ごろに110番通報があり、県警は同日から捜索を続けていた。同サービスは有料会員になれば誰でもライブ配信することができる。富士山は閉山期間中だった。
引用:産経新聞:https://www.sankei.com/affairs/news/191030/afr1910300044-n1.html

生配信中の滑落事故ということで、メディアでも大きく取り上げられました。

この時期の富士山はすでに山小屋も閉山し、標高3776mの厳しい気象条件は、すでに完全な冬山装備が必要だったと思います。

富士山は独立峰で周囲に風を遮ってくれる山が無く、強風になりやすい地形条件です。

積雪面の柔らかい雪は風で飛ばされ、雪面がウインドクラスト(強く風が吹きつけ、固く凍結した状態)した状態はとても滑落のリスクが高い状況だったのではないかと推測されます。

2019年10月14日愛別岳の滑落事故

NEWS記事を引用したかったのですが、個人的に賛同しかねる実名報道ばかりだったので、以下に概要を書きます。

・2019年10月14日、大雪山の愛別岳にソロで入山した男性が、夜になっても帰ってこないので警察に通報が入る。

・2019年10月21日、愛別岳山頂の南側約1kmの登山道から約20m離れた斜面であおむけに倒れているのを発見。現場の積雪は1mで、体の大半が雪に埋まっていた

報道にある愛別岳の南1㎞は、ほとんど登山道分岐のあたりです。

行ったことのある方はご存知かもしれませんが、愛別岳の核心部分岐からの尾根上までの急斜面を降りる箇所です。

夏でも気を付けなければならない地点なので、積雪状態ではとても滑落のリスクが高い状況だったと思います。

晩秋・初冬のリスク

秋の終わりから、冬の初めにかけては登山者は減るのですが、それでも事故が増えてくる時期になります。

この時期に登山することは、いくつかの潜在的なリスクが潜んでいて、以下の通りまとめてみました。

凍結・融解を繰り返す雪面

気温が0℃近辺で推移するこの時期は、雪が積もったり、溶けたりを繰り返します。

溶けた雪が再度凍結することで、雪面がガチガチのアイスバーン状態になりやすいです。

登山用語でクラストという言葉がありますが、以下の要因で形成されます。

・ウインドクラスト(強風で雪面が固く凍る)

・サンクラスト(日射で溶けた雪面が再度凍結する)

・レインクラスト(雨で溶けた雪が再度凍結する)

この時期の登山道の状況は変わりやすいので、登る日の天気だけでなく、登山日前後の天気のチェックも怠らないようにしましょう。

装備のリスク

冬山の登山では、ほとんどの方がバッチリの装備で登るのですが、晩秋~初冬の登山ではほとんど使わないことも多いので、装備が軽装になりがちです。

麓は秋でも、山の上では冬になっているのが心理的な落とし穴になっていると思います。

【冬山で必要な装備】
・アイゼン&ピッケル
秋の登山装備では持っていかないですが、雪が積もるような状況では必須です。

・防寒具
ダウンやツェルトなどの防寒装備は必須です。最低限、ビバークできる装備は欲しい所です。

・ハードシェル
雪面を登る際は、滑落しても皮膚を保護できるような服装にする必要があります。
夏山であればレインウェアで問題無いですが、アイゼンピッケルを引っ掛けると破れてしまったり、滑落などを想定すると生地の丈夫なハードシェルが理想です。
トレイルランニングの方など、皮膚が露出するような服装は、雪面上では厳禁です。

先ほどの2件の滑落事故は、どちらも装備不足が一番の要因だったと思います。

行けるとこまで行ってみようという心理

この時期特有ですが、『雪が積もっているけど、行けるとこまで行ってみよう』という心理的な罠があります。

軽装備でも登りはなんとかなるのですが、登れても降りられないことが多々あります。

例えば雪の斜面は、アイゼン無しでも登れるのですが、下りはアイゼン&ピッケルが無いと降りられない、という状況があります。

引き返すタイミングを間違えてしまい、事故に至るケースが多いです。

めんどくさいという心理

雪面と登山道が露出しているような箇所が連続すると、アイゼンを装着したり、外したりがめんどうで、そのまま登ってしまうことが多々あります。

また積雪が十分で無い時期は、アイゼンの歯も地面にひっかかりやすく、歩きづらいことも挙げられます。

アイゼン装着を怠った結果、滑落してしまったというケースが多々見られます。

まとめ

事故事例は、同じような事故が起きないよう未来への教訓として生かさなければいけません。

亡くなった方のご冥福を祈るとともに、今後、同様の事故が発生しないことを祈ります。

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