亜高山の森に佇む気品のある花、「ホテイアツモリソウ」は環境省レッドリストで絶滅危惧IA類(CR)、北海道レッドリストで絶滅危惧種(CR)の指定を受けている植物で、とても個体数の限られている植物です。
人気のある花ですが、盗掘の被害に遭いやすい花なので、詳細な場所は明かしませんが、今回ご紹介したいと思います。
ホテイアツモリソウとは
名称:ホテイアツモリソウ(布袋敦盛草)、ホテイアツモリ
学名:Cypripedium macranthos var. macranthos
分類:ラン科 アツモリソウ属
アツモリソウの変種で、高さが25㎝~35㎝の多年草。
分布は北海道、本州中部以北で、栽培目的で盗掘されるラン科の中でも、1番被害に遭いやすい種の一つです。
北海道内ではより唇弁が小さな「アツモリソウ」も分布していたようですが、現在は見られなくなってしまいました。
名前の由来
和名の由来は、大きな袋状の唇弁を持つ花の形状を、平安末期の武将「平敦盛(たいらのあつもり)」が背負った母衣(ほろ)に見立てて名付けられました。
またこの命名は同属の「クマガイソウ」とセットになっており、こちらは一ノ谷の戦いで平敦盛を討った、熊谷直実(くまがいなおざね)が名前の由来となっています。
ちなみに、母衣(ほろ)とは武士の道具の一つで、よろいの背に付けて矢を防いだ、布製の袋のような物のことです。
出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AF%8D%E8%A1%A3
ホテイアツモリソウ(布袋敦盛草)はアツモリソウより唇弁が大きく、その大きな花を布袋和尚(ほてい)の太鼓腹に見立てつけられたとされています。
和名を付けた人はけっこうな歴史好きだったのでしょうか。
余談ですが、北海道には「母衣月山」なんて山もあります。
ホテイアツモリソウの特徴
赤紫色の大きな花を付けるホテイアツモリソウは、緑の森の中では良く目立ちます。
寒冷地を好む種類で、海岸~亜高山の草地に生息しています。
大きな背がく片と、横に張り出した2枚の側花弁、大きな袋状の唇弁と、その唇弁の後ろに2枚が合着した側がく片から構成されています。
写真の個体は仮雄しべがツートンカラーで素敵ですね。
この奇妙な形は虫媒花として進化した結果このような構造になっています。
アツモリソウ属の送粉者(ポリネーター)はハナバチ類で、訪花昆虫は唇弁の穴に落ちると、なかなか抜け出せません。
しかし登りやすいように、唇弁基部に向かう側には細かい毛が生えていますが、穴に蓋をするような形でずい柱と仮雄しべがあるので、その結果、2つの雄しべの脇のどちらかを通らなけらば抜け出せない仕組みになっています。
訪花昆虫に花粉を運ばせるために、このような巧妙な花の作りになっているんですね。
仮雄しべの形状も、穴へ落ちる滑り台のように見えてきました。
ホテイアツモリソウは葉の形状も面白いです。
茎葉は中間の葉が最も大きく、基部の葉は比べると少し小さめです。
花を上から見た写真です。
花柄子房にねじれは無く、苞葉も特徴的ですね。
アツモリソウ属の学名のPaphiopedilumの後半部は「pedilon」が由来で、これはサンダルのこと。
英語名はLadys slippers (貴婦人のスリッパ)、またはSlipper Orchid などと呼ばれています。
しかしながら、このホテイアツモリソウに関しては、あまりスリッパには見えませんね。
今回の記事の個体は、札幌市内の某山で撮影しました。
盗掘されず、なんとか生き残ってほしいものです。
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