今回は道北のポロヌプリを登ってきました。
あまり情報の少ない山なので、今後登る方の参考になればと思い、ご紹介させていただきます。
ポロヌプリとは
ポロヌプリは、中頓別町と旧歌登町(現枝幸町)の境界にある、標高841mの山です。
道北エリアにはポロヌプリという山が二つあり、もう一つは興部町と西興部町の境界にあります。
国土地理院の地形図では、歌登の方がポロヌプリ山、興部の方がポロヌプリ岳と表記されています。
アイヌ語の意味だと、ポロ(=大きい) ヌプリ(=山) 、という意味なので、語尾に山や岳が付くのは少し違和感があるので、今回はポロヌプリと表記を統一したいと思います。
この山には登山道が無いので、沢を詰め、気が遠くなるほどの藪漕ぎを経てようやく山頂に立つことが出来ます。
ミヤマノギクの基準標本の産地
「存在すら知らない人がほとんどだと思う。」の書き出しで紹介された、2012年発行の【北の花名山ガイド】でこの山を知ってから、長い間憧れの山のひとつでした。
著者は北海道の花でお馴染みのうめしゅんさんです。
このポロヌプリはミヤマノギクの基準標本の産地で、その他にも珍しい花が見られる事で知られています。
半年以上前からこの山に登るためにスケジュールを空けて、とても楽しみにしていました。
アクセス
枝幸町歌登地区、パンケナイ川沿いの林道の終点から歩き始めます。
入山口の林道は歌登安田鉱山のすぐ近くで、国有林内なので事前に宗谷森林管理所に入林申請をしてください。
郵送しか対応していないのがやや面倒なのですが、私の住んでいる札幌から稚内の事務所まで郵便だと片道4日、往復だと1週間以上かかるので、時間に余裕を持って申請した方が良さそうです。
GPSログ
登山道の無い山なので、沢の経験と長時間の藪漕ぎが出来る体力のある方向けに解説します。
地図に記載の矢印は進行方向と、時間を表記(単位:分)しました。
時間は私一人のソロタイムなので、参考程度にして下さい。
ゲートの手前に狭い駐車帯(1~2台)があるので、そちらに車を置いてスタートです。
序盤は林道歩き、標高点174m付近から沢の遡行開始です。
登りは地図の下の沢を使って、稜線まではとても順調なペースでした。
尾根に出てからが酷い藪漕ぎで、ここから山頂までが4時間もかかりました。
下山は来た道を戻る気になれず、東面の沢へ向けて真っすぐ降りました。
登りで使った下の沢は滝も無く優しめ、下りで使った上の沢は小さな滝が上部にいくつかありましたが、ロープを使うほどでもなかったです。
総評として、沢の難易度は優しいですが、藪漕ぎが大変といった感じでした。
登山の様子(23/06/16)
序盤はパンケナイ林道を歩いていきます。
以前は鍵を借りて沢の遡行開始点まで車でアクセスできたそうですが、現在は林道が崩壊して歩く事になりました。
枝幸パンケナイ林道の看板が入り口にあります。
もう長いこと使われていない林道で、草が茂って見通しの悪い林道です。
実はこの日は2回目のチャレンジで、3日前はこの写真の藪からヒグマが出てきて途中撤退となりました。
遭遇距離は20mほど、特に威嚇行動も無く穏やかな表情の熊でしたが、とてもでかい個体でした。
まだ採石場に近い場所だったので油断していましたが、繁殖期でオス熊は行動範囲を広げています。
ちょっと藪の濃い林道がトラウマになりそうな感じでしたが、この日は熊の気配も無く歩けました。
標高点174mのあたりはちょっとした広場になっています。
ここからしばらくは沢を進んでいきます。
タニウツギのピンクの花が良く目立っていました。
日本海側の印象が強い植物ですが、オホーツク海側のこの山でも分布しているようです。
沢沿いでソウヤキンバイソウが咲いていました。
ソウヤキンバイソウは下記の点が特徴のようです。
・がく片が平開せず、半球形に開く
・花びらが雄しべより短い
・花柄が長い
しばらくは気持ちのいいお散歩のような沢でしたが、徐々に歩きにくくなったので、カメラをしまいました。
沢を詰めきって、尾根の近くまで来ました。
ここからはチシマザサの薮漕ぎが始まります。
かなり密度の濃い藪で、なかなか先に進みません。
少しはケモノ道でもあるかなと思ったのですが、甘い考えでした。
ひたすら根性で笹をかき分けて進んでいきます。
背丈を超える笹薮なので、所々で木に登って現在地確認です。
尾根から南峰まではたった1.2kmほどですが、なかなか前に進みません。
後で見てみるとGPS計測で時速400m、亀の歩みでした。
休憩は木の上に登ってするのが最適解です。
低山という事もあり、ここではチシマザサとハイマツが日光を奪い合うように高く伸びています。
ササもハイマツも背丈を越えると漕ぐのが大変です。
ようやく射程圏内になりました。
薮漕ぎ終盤はハイマツなどの灌木類がうるさい感じです。
ようやく岩場まで着きました。
お目当てのミヤマノギクが咲いています。
アズマギクにそっくりですが、より頭花が大きい感じがしてずんぐりした印象です。
花色も様々で、濃いものから薄いものまでありました。
イワベンケイも咲いています。
山頂付近はハイマツも低くて歩きやすいです。
タカネオミナエシはまだ蕾で咲いていませんでした。
遠目で見た時はトチナイソウかと思いましたが、近寄ったらイワウメでとても残念でした。
ミヤマノギクの他にトチナイソウを見るのも目的の一つでしたが、今回は見つけられませんでした。
まだ蕾だったエゾツツジです。
山頂部はミヤマノギクなどの希少な植物の咲くお花畑ですが、周囲は笹や灌木に覆われており、人を寄せ付けない天然の要塞となっていました。
ミヤマノギクは全体に長軟毛が多く、高山植物らしい見た目です。
チシマゼキショウが咲いていました。
この山の個体は果実が黒みを帯びるクロミノイワゼキショウと呼ばれる品種です。
山頂からは中頓別町の敏音知岳(ピンネシリ)や、パンケ山、ペンケ山が見えています。
北には浜頓別町にある珠文岳(しゅぶんだけ)が見えました。
山頂にぽつんとあったツクモグサ。
すでに花期を終えて種になっていました。
まとめ
- 往復ともに山頂東面の沢を使う方がたぶんスムーズ
- ミヤマノギク他、希少な植物が見られる
- 展望も良し!
貴重な植物の咲く山なので記事にするか悩みましたが、盗掘目的の人には難易度が高く、きっと辿り着けないでしょう。
長時間の薮漕ぎをする体力を持つ、野草を愛する仲間にぜひこの情報を役立てて欲しいと思います。
また今回は時間が無く、トチナイソウを見つけられなかった事が心残りです。
うめしゅんさんが最後に登った1985年から、今は2023年で40年近く経っています。
自然消滅で絶滅してしまったのでしょうか??
ミヤマノギクが咲いていた事を考えるとそんなに時期はズレていないと思うのですが、次回リベンジする時は誌面に記載の通り6月下旬に再訪したいと思います。
余談ですが、マダニに喰われたのは1ヶ所だけでとてもラッキーでしたが、着ている服や装備にたくさん付いていて、下山してからの後処理が大変でした。
沢靴も装備もボロボロになりましたが、憧れのミヤマノギクを見ることが出来て大満足の山行となりました。
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