春の山野草シーズン、どちらも白い花をつける「アズマイチゲ」と「キクザキイチゲ」の見分け方をご紹介いたします。
特にシーズン初めの時期は、「あれ、どっちだったっけ?」と思う方もいると思いますので、その違いを部位ごとに見比べて解説しました。
アズマイチゲとは
高さが15~20cmの多年草で、分布は北海道、本州、四国、九州。国外では、朝鮮、樺太、ウスリー地方です。
北海道では、春先に咲くスプリングエフェメラルの代表種です。
キクザキイチゲとは
高さが15~25cmの多年草で、分布は北海道、本州の近畿地方以北です。
北海道では普通に見られる花ですが、関東地方の一部ではレッドリストの絶滅危惧I類や絶滅危惧II類などの指定を受けている地域もあります。
見分け方
この2種は混生していると違いがはっきりと分かるのですが、それぞれ単体で咲いていることも珍しくありません。
それぞれの部位ごとにその違いを見比べてみましょう。
全体像
まずは「アズマイチゲ」から見て行きましょう。
この花は葉っぱがやや垂れ下がるのが大きな特徴で、ぱっと見の印象はやや控えめな感じです。
これに対し「キクザキイチゲ」は、葉が垂れ下がらないので、春の日差しを浴びて元気いっぱいに咲いている感じです。
花
アズマイチゲは、花糸(かし)の根元が紫色になっていることが、大きな特徴です。
※花糸(かし)とは雄しべを構成する一部で、花粉が入っている葯(やく)を支える糸状の部分です。
日当たりが良い時には花も良く広くので、晴れた日にはぜひ観察してみて下さい。
花茎(かけい)には「長軟毛(ちょうなんもう)」が生えていますが、開花する頃には無くなっていたり、開花後に残っていても次第に無くなります。
アズマイチゲの萼片(がくへん)の裏側は、赤みを帯びる場合があります。
個体差もあって赤みを帯びない場合もありますが、萼片(がくへん)の裏が赤っぽい場合は「アズマイチゲ」と同定できます。
こちらはキクザキイチゲの花のアップですが、よく似ていますね。
萼片(がくへん)の形状などは、ほとんど違いが無く、萼片(がくへん)の枚数も個体差があって、判別の材料にはなりません。
アズマイチゲと違って、花糸(かし)の根元が青くならないのが、見分けのポイントになります
キクザキイチゲの花茎(かけい)にも軟毛(なんもう)が生えていますが、アズマイチゲに比べて毛が短いです。
先ほどのアズマイチゲの軟毛と比べてみると、一目瞭然です。
キクザキイチゲは普通、白色の花を咲かせますが、薄紫~紫色などの個体も見られます。
アズマイチゲは白色の個体しかありませんので、ここも見分けのポイントになります。
- 花糸(かし)の根元が紫色だったらアズマイチゲ確定
- 花茎の毛の長さを見比べてみる
- 萼片の色(花の色)が紫だったら、キクザキイチゲ確定
総苞葉
次は葉を見比べてみましょう。
アズマイチゲとキクザキイチゲはどちらも、「地下茎(ちかけい)」を持っており、花をつける花茎につく「総苞葉(そうほうよう)」と、花をつけない「根出葉(こんしゅつよう)」があります。
花より違いがはっきり分かるので、より分かりやすい判別のポイントになります。
アズマイチゲの葉はやや垂れ下がり気味なのが特徴で、また小葉の先は不明瞭に切れ込みます。
先ほどの花パートでも解説しましたが、葉柄(ようへい)や茎の部分にも「長軟毛(ちょうなんもう)」があります。
これは開花する頃には無くなっている場合もあります。
こちらは花をつけていないのでややこしいですが、総苞葉のついている茎にびっしりと長軟毛(ちょうなんもう)が付いています。
写真からもふわふわで柔らかそうな質感が伝わってきますね。
こちらはキクザキイチゲの総苞葉(そうほうよう)で、小葉が羽状(うじょう)に切れ込むのが特徴です。
アズマイチゲとキクザキイチゲは「葉の切れ込み方」が一番分かりやすい見分けのポイントですね。
また総苞葉(そうほうよう)の葉柄(ようへい)の根元に広い翼(よく)があるのが特徴です。
後述しますが、根出葉(こんしゅつよう)には翼が付かないのがちょっとややこしいです。
つまり、花をつけている葉の根元には翼(よく)があるという事です。
※翼(よく)とは、葉柄や茎につくヒレ状の部分です。
- 小葉が羽状になるか、ほとんど切れ込まないかで見分ける
- 総苞葉が垂れ下がっていたらアズマイチゲ
- 葉柄に翼があったらキクザキイチゲ
根出葉
次は根出葉(こんしゅつよう)を見比べていきましょう。
根生葉(こんせいよう)とも言いますが、地上茎の根元に付く葉や、地下茎が付けた葉の事を言います。
アズマイチゲとキクザキイチゲはどちらも「地下茎(ちかけい」が発達しており、地面から花をつけない根出葉(こんしゅつよう)が周囲に生えています。
ちょっとややこしいですが、写真中央と左(これは花をつけてません)の2つが総苞葉(そうほうよう)、一段低く密生しているのが、根出葉(こんしゅつよう)です。
御覧の通り、葉の切れ込み方に違いがあるのが分かると思います。
どちらも同じ植物の葉なのに、切れ込み方に違いがあるのが面白いですね。
写真左上隅に映っている総苞葉(そうほうよう)と、その他は根出葉(こんしゅつよう)です。
総苞葉が「不明瞭に切り込む」or「ほとんど切り込まない」のに対し、根出葉は「はっきりと切れ込み」があります。
根出葉だけ見るとキクザキイチゲと似ていますが、写真の通り「長軟毛」があると見分けが出来ますね。
こちらはキクザキイチゲの根出葉ですが、アズマイチゲの根出葉と似ていますね。
総苞葉にはある翼(よく)が根出葉には無いので、混同しないようにしましょう。
集合果
こちらはキクザキイチゲの集合果です。
花が咲き終わると、花柄(かへい)の先が下向きに曲がります。
こちらはアズマイチゲの集合果です。
花が咲き終わると、花柄(かへい)は根元からだらっと垂れ下がります。
曲がった花柱(かちゅう)が目立っていますね。
果実の姿はわりと似ているので、花柄(かへい)の曲がり方は見分けのポイントになると思います。
まとめ
アズマイチゲとキクザキイチゲの違いを解説していきましたが、下記に見分けるポイントをまとめてみました。
- 長軟毛がある⇒アズマイチゲ
- 花糸の根元が紫色⇒アズマイチゲ
- 萼片の裏側が赤みを帯びている⇒アズマイチゲ
- 葉が垂れ下がっている⇒アズマイチゲ
- 葉の切れ込み方が羽状⇒キクザキイチゲ
- 総苞葉の葉柄に翼がある⇒キクザキイチゲ
- 花の色が紫色⇒キクザキイチゲ
注意して欲しいのは、最初に挙げた「長軟毛(ちょうなんもう)」は次第に無くなっていくので、長軟毛が無いからと言って、キクザキイチゲと同定しないで下さいね。
どちらも春の山野草シーズンを彩ってくれる、スプリングエフェメラルの「アズマイチゲ」と「キクザキイチゲ」の見分け方をご紹介させていただきました。
ぜひ参考にしてみて下さいね。
最後まで御覧いただきまして、ありがとうございました。
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