自然観察・コラム

野生動物への餌付けと問題点について

今回は『野生動物への餌付けと問題点』について記事を書いてみました。

北海道では、観光客から餌付けされた『キタキツネ』を見る機会が多く、毎回何とも言えない悲しい気持ちになってしまいます。

本州からお越しの方にとっては、ブラキストン線を超えた北海道の野生動物は珍しく、出会えた時の嬉しさもわかるのですが・・・。

野生動物への餌付けを種類分けしてみる

野生動物への餌付けは、様々な要因と問題が絡み合っているので、様々なパターンが見受けられます。

今回はわかりやすくするために、以下の4つにジャンル分けをしてみました。

事業による餌付け

主に希少種に対して、その保護事業として給餌(きゅうじ)するパターンです。

  • シマフクロウの保護

北海道東部に生息する、「シマフクロウ」は、国内希少野生動植物種に指定されています。

環境省では、「シマフクロウ保護増殖事業」で給餌用の池を作り、シマフクロウの繁殖を手助けしています。

当たり前ですが、この給餌は『必要最小限の期間及び量』を考えて実施されており、『他の一般の方がシマフクロウに餌付け』していいわけではありません。

リンク:シマフクロウ保護増殖事業における給餌等について

  • タンチョウの保護

一度は絶滅したと思われていたタンチョウですが、人工給餌によって順調に個体数が増加しています。

現在でもエサの不足する11月~3月はエサやりを実施しているようです。

リンク:環境省がタンチョウ保護増殖終了方針 給餌「将来的に全廃」

商業的な餌付け

主にビジネスを目的とした餌付けです。

  • 知床地域のワシの餌付け
  • 道東地域の旅館・宿のシマフクロウへの給餌
  • 奈良公園の鹿せんべい
  • ボラボラ島のエイ

野生動物への餌付けによって、観光客がその動物を観察・撮影したり、もしくは『直接エサをあげる体験』を商売にしているパターンです。

普段触れ合う事の出来ない野生動物との出会いは、旅の思い出としては『かけがえのないもの』であり、ビジネスのネタとしては魅力的なのでしょう。

間接的な餌付け

直接エサをあげているわけでは無いので、『無意識的なエサやり』とも言い換える事が出来るかもしれません。

  • 生ごみの不十分な処理
  • 畑・家庭菜園などの被害
  • 収穫後の畑

『生ごみの不十分な処理』は、ごみステーションを荒らすカラスや、2019年は話題になった『アーバン・イノシシ』などが良い事例でしょう。

都会に出てきたイノシシは、自然界には無いような高カロリーの生ごみを食べることにより、体が巨大化しました。

リンク:あなたの街にも出没!「アーバンイノシシ」高カロリーの生ゴミ食べて繁殖

『畑・家庭菜園などの被害』は、餌付けしているわけでは無いですが、野生動物に食べられてしまう場合があります。

生ごみの事例と似ていますが、2019年札幌の簾舞地区に現れたヒグマは家庭の庭のプラムやトウモロコシを食べていました。

最後の『収穫後の畑』は、主に野鳥が集まってきます。

これは機械で収穫した後の畑には、たくさんの落穂があり、これを「食料目当ての野鳥がやってくる」というわけです。

これらのように、人間の経済活動・生活によって、間接的に餌付けになっている場合があります。

直接的な餌付け

人が直接、野生動物にエサをあげるパターンで、いわゆる一般的な「餌付け行為」です。

娯楽や文化的な側面が強く、言ってしまえば『一番悪質』な場合が多いです。

  • ハトやカラスへのエサやり
  • キツネへのエサやり
  • 鯉へのエサやり
  • 野良猫へのエサやり

エサやりの何が悪いのか

まず大前提として、環境省が『鳥獣の保護及び管理を図るための事業を実施するための基本的な指針』において、鳥獣への安易な餌付けの防止について取り組むと記載されています。

まず大前提として『餌付け』はダメという事が基本です。

7 鳥獣への安易な餌付けの防止
鳥獣への安易な餌付けは、人の与える食物への依存や人馴れが進むこと等による人身被害及び農作物被害、個体間の接触が進むことによる感染症の拡大を招くとともに、餌付けを行った者による感染症の伝播等の誘因となり、生態系や鳥獣の保護及び管理への影響を生じさせるおそれがある。このため、国及び都道府県は希少鳥獣の保護のために行われる給餌等の特別な事例を除き、地域における鳥獣の生息状況や鳥獣被害の発生状況を踏まえて、鳥獣への安易な餌付けの防止についての普及啓発等に積極的に取り組む。希少鳥獣の保護のために行われる給餌についても、高病原性鳥インフルエンザ等の感染症の拡大又は伝播につながらないように十分な配慮を行う。さらに、不適切な生ごみの処理や未収穫作物の放置は、結果として鳥獣への餌付けにつながり、鳥獣による生活環境や農林水産業等への被害の誘因にもなることから、鳥獣の生息状況を踏まえながら地域社会等での普及啓発等にも努める。
出典:鳥獣の保護及び管理を図るための事業を実施するための基本的な指針

次に、なぜ餌付けがダメなのか考えていきましょう。主な理由は以下の通りです。

  1. エサを探す能力が失われる
  2. 体に合わないエサを食べる事で起きる健康被害
  3. 人間への警戒心が薄れ、行動が変化する
  4. 生態系の攪乱
  5. 人間社会への実害

【エサを探す能力が失われる】
餌付け行為によって、動物が自分自身でエサを採ることを辞めてしまう事です。

言い換えると、人間からの餌付けに依存してしまっている状況です。

自分でエサを探す事をしなくなった動物は、餓死寸前になったり、道路に出てきて交通事故により死んでしまう事が多いです。

【体に合わないエサを食べる事で起きる健康被害】
野生動物へ何をあげるかによりますが、基本的に人間が食べている食べ物は、動物たちに合わないことが多々あります。

例に挙げると、北海道の観光地では「おねだりギツネ」と呼ばれる、キタキツネがいます。

キタキツネの主食はネズミなどの動物性のものを食べているのですが、一度観光客からお菓子やパンをもらうと、先ほどの例のように自分で狩りをしなくなり、道路にたびたび出てくるようになります。

ただし、お菓子やパンでは空腹は満たせますが、栄養価が少なく上手く消化が出来ないため、キツネは次第に体力や免疫力が落ちていきます。

餌付けによって免疫が落ちた結果、ヒゼンダニによって発症する『疥癬(かいせん)』という病気にかかりやすくなります。

疥癬は重症化すると体や尾の毛が抜け、皮膚が厚く硬くなり、目が見えなくなってしまうこともあります。

つまり、最終的には道路に出てきた「おねだりギツネ」は目も見えず、交通事故病気による衰弱で亡くなってしまうわけです。

【人間への警戒心が薄れ、行動が変化する】
餌付けの個体は人間への警戒心が薄くなり、事故につながるケースも少なくありません。

世界遺産の知床では、1本のソーセージの餌付けから、道路に出てくる「ヒグマ」が射殺されてしまった悲しいエピソードがあります。

気になる方は『知床 ソーセージ』で検索するとすぐ出てきますので、調べてみて下さい。

また人に慣れやすいヤマガラなどの鳥は、慣らすと手乗りで餌付けすることも可能になってしまいます。

【生態系の攪乱】
餌付けされた種類が増加・減少することにより、生態系のバランスが乱れる事が予想されます。

また渡り鳥は餌付けによって、本来の移動ルートや時期にも影響があると言われています。

【人間社会への実害】
例えば、ハトや野良猫へエサをやると、特定の場所に動物が集中し、動物の排泄物で公共の場が汚れたり、衛生面での問題が発生します。

またコイや水鳥などへのエサやりは水場の水質を悪化させる原因となることもあります。

なぜ安易な餌付けが無くならないのか

一番の理由は、『知識不足』だと思います。

餌付けによって、その動物がどのような結末を迎えるのかまで知っていたら、そんな無責任な事は出来ないはずです。

また昔は野鳥などに『エサをあげる事』が良いことだ(美談)とされていた時代もあったので、現在の『餌付け=悪』という価値観が理解できないのかもしれません。

「あなたがエサをあげたキツネは数日後に死ぬことになりますよ。」

こんなことを言われたら、さすがに誰もキツネにエサをあげる事はしないでしょうが、その理由を知らないとピンとこないかもしれません。

キツネは餌付け行為によって、ほとんどがショッキングな最期を迎えてしまうので、比較的理解しやすいと思います。

「あなたがエサをあげたその水鳥は、羽が変形してしまいますよ。」

水鳥は人間からの大量のパンによって、羽が奇形になる(エンジェル・ウィング)ことが知られています。

今まで毎日の日課で、公園の池の水鳥にエサやりをしている方は、果たして信じてくれるでしょうか?

「毎日エサをあげているけど、そんな症状は見たことが無い」など、自分自身を正当化する理由を見つけて、信じてくれないかもしれません。

まとめ

これ以上、可哀そうな野生動物を増やさない為にも、最低限の知識を持ってほしいと思います。

最低限、北海道に観光で来られる方は『キツネ』と『ヒグマ』には絶対エサをあげないでください。

最後まで御覧いただきまして、誠にありがとうございました。

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