自然観察・コラム

コアラとユーカリが森林火災で激減!?のニュースについて

(2019年12月1日作成)
(2020年1月20日更新・追記)

2019年11月、オーストラリアの森林火災の規模が大規模なものになり、世界中で大きく報道されました。

ここで注目を集めたのは、火災現場に取り残されたコアラを通りがかりの女性が救助した映像がネット上で拡散されたことも要因の一部のようです。

今回は、こちらのニュースとコアラの生態・森林火災について掘り下げて行きたいと思います。

大規模森林火災でコアラ激減のニュース


Photo by Brook Mitchell / Getty Images

オーストラリア南部で続く記録的な干ばつと森林火災により、コアラの生息地の大部分が焼き尽くされ、コアラが絶滅してしまう懸念が浮上した。

オーストラリア・コアラ基金(AKF)のデボラ・タバート会長は、火災によって1000頭以上のコアラが死亡し、コアラの棲みかの80%が焼失したと試算した。同基金は「コアラが理論上の絶滅の危機に直面している」と述べた。ただし、一部の専門家はコアラの個体数の測定が困難であることから、AKFの試算が誇張気味だと指摘した。

引用:Forbes Japan https://forbesjapan.com/articles/detail/30938

オーストラリア南東部ニューサウスウェールズ州のポートマッコリ―地区で発生した大規模な山火事は、過去に前例が無いほどの壊滅的な被害となりました。

とりわけ、森林火災の被害者のシンボルとして、火傷をしている『コアラ』の姿が報道されました。

いくつかのニュースを読み比べると、『コアラが絶滅の危機に瀕している』と言ったはAFK(オーストラリア・コアラ基金)の発言はちょっと大げさだったようで、専門家や科学者は、直ちに絶滅することは無いと否定しているようです。

ただし、コアラの個体数や生息地域が減少し続けているのは本当のようです。

【1月20日追記】
11月の初夏の時期から、夏に入った現在は森林火災がさらに悪化しました。

シドニー大学の研究者によると、哺乳類、鳥類、虫類なども含め、約10億以上もの動物が犠牲になっていると推測しています。

ユーカリと山火事の関係

日本ではあまり山火事は馴染みが無いという方が多いと思いますが、日本国内でも平均すると、毎日4件の火災が発生しているそうです。

最近5年間(平成25年~平成29年)の平均でみますと、1年間に約1.4千件発生し、焼失面積は約8百ヘクタール、損害額は約5.8億円となっています。

これを1日あたりにすると、全国で毎日約4件の山火事が発生し、約2ヘクタールの森林が燃え、1.6百万円の損害が生じていることになります。

引用 林野庁:http://www.rinya.maff.go.jp/j/hogo/yamakaji/con_1.htm

森林火災は自然のサイクルの一部であり、太古の昔から繰り返し発生し、森林火災に合わせて子孫を残す仕組みを持った植物も存在します。

ただし、日本の森林火災は発生要因が人為的(たき火、放火、)なものが多いですが、オーストラリアの森林火災は自然のサイクル(自然発火)によるものが多いのが特徴です。

オーストラリアに自然発火が多いのは、高温で乾燥している気候条件のほかに、ユーカリの存在が一役買っています。

ブラフノールで撮影したユーカリ

ユーカリの葉から放出されるテルペンという物質は引火性で、気温が高くなると放出量が多くなります。

そのため、夏季のユーカリ林のテルペン濃度は高くなり、何らかの原因で火が付いた場合に燃え広がり、森林火災となってしまいます。

オーストラリアの世界遺産『ブルー・マウンテンズ』地域は、91種のユーカリが広く自生している地域で、空気中に気化したテルペンによって、青みがかって見える事が名前の由来にもなっています。

森林火災を利用する植物

ユーカリは自らの葉から放出するテルペンが森林火災の原因となりますが、ユーカリ自身も火災に巻き込まれてしまわないか?という疑問が残ります。

しかし、ユーカリは樹皮が非常に剥がれやすく、燃えやすい為、火が付くと樹皮が剥がれ落ちて、幹の内部を守ることが出来ます。

またユーカリの実は山火事を経験した後の降雨で発芽するとも言われています。

同じくオーストラリアに分布する『バンクシア』の種子も、森林火災によって刺激を受けて裂けると言われています。

以上のように、森林火災が無くなってしまうと困る植物の存在も忘れてはいけません。

パースの植物園で撮影したバンクシア

コアラとユーカリの毒

以前、パースの動物園内で初めてコアラを見た際に、飼育員さんから『コアラは毒のあるユーカリを主に食べるから、1日のほとんどを寝て過ごすの』と教えてもらったことがあります。

後日詳しく調べると、ユーカリの毒素が原因というよりは、ユーカリの葉が栄養に乏しく、エネルギーを節約するために、コアラは長時間睡眠(18~20時間)をしている、ということが分かりました。

ユーカリの葉は栄養素が少ないため、コアラは1日に500㎏もの大量のユーカリの葉を食べています。

またコアラが食べるユーカリの葉は、他の植物に比べ、テルペン合成酵素を多く含み、他の動物が食べる事はありません。

コアラがユーカリを食べられるのは、その毒素を2mもある長い盲腸で発酵して、毒素を分解することで消化吸収しています。

ちなみに人間の盲腸は5~10cmほどで、一般的に植物繊維のセルロースを分解するために、草食動物の盲腸は長くなる傾向があります。

コアラが樹に抱きつく理由

気温が高くなると樹に抱きつき、気温が下がって過ごしやすくなると、姿勢が良くなることが、2014年の研究で発表されました。

要するに、樹に抱きつくのは体温調整の為だったわけです。

コアラは汗腺が無いため、暑さに弱い動物とされています。

水分補給も主にユーカリの葉からで、ほとんど水を飲まないことも知られています。

また暑さが厳しい時は、幹の気温が低いアカシアの木に抱きつくこともあるそうです。

出典:Biology Letters https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsbl.2014.0235

コアラは激減しているのか?

コアラの分布地域は、クイーンズランド州南東、ニューサウスウェールズ州東部、ビクトリア州、南オーストラリア州南東部と、大陸の東側の地域に生息しています。

「コアラの数を推定するのは、何もかも順調に進んだとしても非常に難しい作業です」とアダムス=ホスキング氏は言う。コアラはオーストラリア東部のとても広い範囲に分布しており、人前には出たがらず、高い木の上を好むからだ。「局所的に絶滅しつつある場所も、まだ問題ない場所もあります」

コアラは、土地開発や餌の悪化(大気中の二酸化炭素の増加により、ユーカリの葉の栄養価が低下している)、干ばつ、犬による攻撃、クラミジア感染症などにも脅かされている。

ナショナルジオグラフィック:https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/112600686/?P=2

ナショナルジオグラフィックの記事によると、今回のような森林火災の他にも、様々な要因が絡み合ってコアラは減少に向かっているようです。

またコアラはユーカリの強い毒性を解毒できるため抗炎症剤や抗生物質もすぐ分解されてしまうことが、2018年の研究で発表されました。

つまり薬が効きにくいということです。

出典:https://www.nature.com/articles/s41588-018-0153-5

愛らしい姿と裏腹に、なんともクセの強い動物です。

森林火災の現状(2020年1月20日追加)

A map from researchers in Western Australia shows hundreds of wildfire hotspots across the nation as of Wednesday, Jan. 1, 2020. Landgate’s MyFireWatch

出典:TIME

2020年1月1日時点の地図ですが、オーストラリア全土で山火事が発生していることが分かります。

オーストラリアでは「MyFireWatch」という山火事を表示するオンラインマップサイトがあり、こちらのデータを元に、上の図は作成されているようです。

山火事のマークで見ずらいですが、シドニー、メルボルン、アデレードなどの大都市周辺でも火のマークがあることが分かります。

現在までに、推定で1700万ヘクタール(日本の国土面積の約半分)の森林が火災によって失われたと言われています。

2020年1月16日に降雨があり、山火事の鎮静化へと期待されましたが、一部地域では洪水の被害が出ました。

これは極度に乾燥した地面や、給水能力のある樹木が焼失しまったことが原因とされています。

まとめ

今回の森林火災はまだ春の時期なので、この後の夏はさらに火災が増えてくる時期になります。

また同様な森林火災によってコアラの生息域にダメージが無いことを祈ります。

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