今回は「スズムシソウ」をご紹介したいと思います。
魅力的なリパリスで、山野草としての人気も高く、盗掘の被害に遭いやすい花でもあります。
スズムシソウとは
名称:スズムシソウ(鈴虫草)
学名:Liparis suzumushi
分類:ラン科クモキリソウ属
北海道から九州まで分布し、国外では朝鮮半島や沿海州などにも分布しています。
2019年に学名の再検討がされ、「Liparis makinoana」から「Liparis suzumushi」に変わりました。
出典:Taxonomic Reappraisal of Liparis japonica and L. makinoana
花期は6月~7月、高さが10㎝~30㎝の多年草です。
名前の由来
花の形が昆虫の「スズムシ」に似ている事が名前の由来となっています。
通常高さが10~30㎝ほどの本種ですが、上の写真のスズムシソウは地表面に近い所で咲いていたので、まさに「スズムシ」が地面を歩いているかのようでした。
他のクモキリソウ属の「セイタカスズムシソウ」、「オオフガクスズムシ」、「フガクスズムシソウ」と比べても本種が一番「スズムシ」に似ている気がします。
スズムシソウの特徴
スズムシソウの花のアップです。
作りが複雑ですが、ラン科で標準的な3枚のがく片、3枚の花弁(1唇弁、2側花弁)から構成されています。
側花弁は細く糸状になっています。
側面からのアップです。
花柄子房は赤みが強く、ラン科に特有の「ずい柱(雄しべと雌しべが合体したもの)」が良く目立ちます。
再度、別角度からのアップです。
特徴的な唇弁は薄く、うっすらと網目状の模様が見えます。
背がく片が長くて特徴的ですが、つぼみの時期に見るとよくわかります。
開花してがく片が開くと、側がく片の2枚は丸まって筒状になり、薄い唇弁を支えるような形になります。
葉の根元には偽球茎(ぎきゅうけい)が見られます。
これは地上茎の一部が肥大化して貯蔵器官となったもので、ラン科の花に見られるものです。
この偽球茎から花茎(かけい)と2枚の葉を出します。
2枚の葉の縁は波打ち、やや縦筋が目立ちます。
撮影した時、たくさんの訪花昆虫達が見られました。
スズムシソウの唇弁の中心部を走るように光沢が見えると思いますが、この辺りから蜜を出しています。
昆虫が蜜を吸いに来た時に、ずい柱についた花粉塊(かふんかい)を訪花昆虫にくっつけて運んでもらう戦略です。
羽虫や蟻が訪れて、賑やかな「スズムシソウ」ですが、自然界での結実率は高く無いそうです。
写真に写っている虫では小さすぎて、ポリネーター(送粉者)になりえないのでしょうか。
花茎(かけい)にははっきりした稜(りょう)がありました。
山で出会えると嬉しい花の一つです。
盗掘の被害に遭わないで、いつまでもここで咲いていてくれることを願っています。
クモキリソウ属の花
北海道のラン科クモキリソウ属は、以下の9種が分布しています。
- ジガバチソウ
- クモキリソウ
- シテンクモキリ
- フガクスズムシソウ
- オオフガクスズムシ
- ギボウシラン
- セイタカスズムシソウ
- アキタスズムシソウ
- スズムシソウ
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