今回は春に咲く小さなお花「ヒメニラ」をご紹介したいと思います。
春に咲いてすぐ地上部を枯らしてしまう典型的な「スプリングエフェメラル」なので、見つけると嬉しい花の一つです。
ヒメニラとは
名称:ヒメニラ(姫韮)
学名:Allium monanthum
分類:ヒガンバナ科ネギ属
国内では北海道~九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国大陸(東北部)、ウスリー地方などで見られます。
北海道から南は九州までと分布は広いのですが、見られる場所は局所的で、あまり観察機会の少ない花の一つです。
名前の由来
全草に微かにニラの臭気があることが名前の由来となっています。
また別名として、「ヒメアマナ」、「ヒメビル」という名前もあります。
ヒメニラの特徴(取材日:4/28 帯広市)
小さな鐘形のお花は、6枚の花被片(かひへん)から構成されています。
雌雄異株(しゆういしゅ)のお花で、上の写真は雌花です。
花の基部に、薄い膜状の苞(ほう)がつくのも特徴的です。
雌しべの柱頭は3裂するのが良く目立っています。
花のサイズは5㎜程、米粒のような大きさです。
花は花茎(かけい)の先に1個~2個つきます。
今回観察したポイントではほとんどが1個の花でしたが、ちらほらと2個の花をつけている株もありました。
雌花は花被片が赤みを帯びるのもポイントです。
次に葉を見て行きましょう。
根元に目を向けると、葉から花茎が突き抜けるように分岐しているのが分かります。
写真をよく見ると、葉の基部は中の花茎が透けて見えていますね。
また花茎は根元付近が暗紫色、花の方にいくと緑色になり、色の変化も面白いです。
地下の鱗茎(りんけい)から1~2枚の葉を出し、長さが10㎝~20㎝ほど。
葉の表面は粉白色で、隣のひっくり返っている葉を見ると緑色、表と裏の色の違いが良く分かると思います。
葉は中実で断面は三日月形になっているそうです。
葉先と根元は細く、葉の縁は少し丸まっている株もありました。
葉は斜上したり、寝ていたりしましたが、上の写真を見ると花より葉が長い事が良く分かります。
雄花と両性花は稀
ヒメニラはほとんどが雌花で、雄花や両性花はほとんど見られません。
今回観察したポイントは、すべてが雌花でした(もしかしたら両性花はあったかも・・・)。
雄花が撮影出来たら写真・記事を追加したいと思います。
ヒメニラの繁殖方法
春に咲いた後は地上部を枯らし、この地下にある鱗茎(りんけい)だけを残して休眠します。
ほとんどの花が雌花という事で、ヒメニラの繁殖はこの鱗茎(りんけい)による栄養繁殖でのみ個体群が維持されています。
キバナノアマナとの葉の違い
同じ時期に咲くキバナノアマナの葉とヒメニラの葉はよく似た雰囲気があります。
実際に見比べるとけっこう違う感じがするのですが、キバナノアマナの葉は20㎝~30㎝と大きく、ヒメニラの葉は10㎝~20㎝と一回り小さい印象です。
また「キバナノアマナ」の葉の中心は葉脈が目立ちますが、ヒメニラの葉の葉脈はあまり目立たない印象です。
スプリングエフェメラルの1種
ヒメニラは、春先に花をつけ、夏には地上部を枯らして、後は春まで地下で過ごすスプリングエフェメラル(春植物)と呼ばれる植物です。
スプリングエフェメラルとは、直訳すると「春のはかないもの」、「春の短い命」という意味で、「春の妖精」とも呼ばれています。
ヒメニラの北海道での花期は4月下旬~5月頃で、その後は地上部を枯らし、鱗茎を残して秋ごろまで休眠状態に入ります。
先ほどリンクを張ったの長井幸雄さんの論文によると、
高木層の落葉とともに林床の相対照度がもとの状態に戻る9月中旬に鱗茎より7本前後の根を出し,つづいて伸長成長を行ない,地中あるいはリッターの下で冬を越す。
出典:長井幸雄*ヒメニラの繁殖様式とその生物学的意義
とされています。
※リッターorリターとは、落葉や落枝、植物遺骸や樹皮などのいわゆる森の中のゴミの総称。
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