植物図鑑

ブナ「北海道の樹木」

ブナとは

名称:ブナ(山毛欅、橅、椈、桕、橿)
学名:Fagus crenata Blume
分類:ブナ科 ブナ属

北海道南部、本州、四国、九州に広く分布する、落葉高木です。

ブナが自生していないのは、千葉県沖縄県のみで、日本中に広く分布していることが特徴です。

北海道内での分布は黒松内低地帯以南で、札幌に住む私にとっては、道南の木という印象が強い樹木です。

名前の由来

所説ありますが、ブナの林に風が通り抜けるとき「ブ~ン」という音がすることから「ブーンと鳴る木」から「ブナの木」⇒「ブナ」となった説があります。

また、材としての利用が難しいことから役に立たない「ぶんなげる木」が由来との説もあります。

ブナの特徴

まだ葉が開いたばかりのブナの葉は、やや赤みを帯び長軟毛(ちょうなんもう)があるのが特徴です。

長く柔らかそうな毛が目立っていますね。

しばらくすると、この赤みは消え、毛も無くなっていきます。

ブナは新緑がとても美しく、とても鮮やかな黄緑色をしています。

この時期はブナ林の散策が楽しい時期です。

ブナの花は開花が早く、北海道では5月頃です。

葉の下に、小さな茶色いもじゃもじゃがぶら下がっていますが、これが雄花です。

花の時期に地面を見ると、たくさんのブナの花が地面に落ちているのが良く目立ちます。

マイヅルソウのくぼみにピッタリとはまってしまったブナの雄花です。

花期にはこんなほっこりする姿も見られるかもしれませんので、ぜひ探してみて下さい。

ブナは1本の木に、雄花(おばな)と雌花(めばな)をつける雌雄同株(しゆうどうかぶ)です。

上向きについているのが雌花で、下向きについているのが雄花です。

ブナは風媒花(ふうばいか)で、風の力を利用して花粉を飛ばしているのですが、雌花が上に付くことで、同じ株の花粉を受け取らないようにする意味があります。

少しでも自家受粉を防ぎ、他家受粉の確立を高くする仕組みで、風媒花の他の樹木でも一般的な構造です。

ブナの果実は、長さ2㎝~2.5㎝ほどで、柔らかい棘があります。

この時期になると、葉もすっかり新緑の色ではなく、濃い緑色になっています。

熟すと4つに裂け、中から堅果(けんか)が出てきます。

ブナの実は栄養価が高く、森の動物達にとって貴重な食料になります。

ブナが純林を形成するわけ


日本では古くから「ブナ林」という言葉があるように、ブナは純林(樹冠が唯一種の樹林からなる森林)を形成することが珍しくありません。

ただし地域差があり、日本海側では純林を形成することが多く、太平洋側では他の樹木と混じっている事が多いです。

ブナの戦略

ブナの稚樹は、比較的暗い場所でも耐えられる耐陰性を持っています。

そのため、林床で稚樹の集団を作り、ギャップが出来る(周囲の大木が倒れる、ササが枯れる等)のを待つことが可能です。

ブナの寿命は長く、200年から300年ほど生きるので、のんびりと太陽光が当たるようになる事を待てる訳なんです。

またブナは種子初産年齢が40歳と高いのも特徴で、まずは栄養分を大きくなることに使い、繁殖は後回しにする戦略を取っています。

ブナが純林を形成する日本海側は攪乱が少ないので、高齢出産でも十分に種子生産を行う事が出来ます。

反対に攪乱の多い太平洋側(山火事や人為的な攪乱)では、種子初産年齢が高いと、十分に種子生産をする前に攪乱に巻き込まれてしまうリスクがあります。

積雪に強い


ブナはしなやかな幹を持っており、他の多くの木々より積雪に強いとされています。

日本海側の豪雪地帯では、積雪の重みによって根元が「J」の字に曲がった木を良く見かけます。

ブナは雪の多さを味方につける事で、日本海側で生息地を広げてきた背景があります。

根っこが浅い

ブナの根っこは1.2m~1.4m程度までと比較的浅いのが特徴です。

ブナの倒木は、周囲の土壌ごと持ち上げて塊状に倒れているのを良く見かけます。

ブナの成り年現象・マスティング


ブナは5~7年に一度、大量に実を付ける成り年があり、広い範囲で同調します。

そしてその間ほとんど結実しない、凶作や並作が続きます。

このような現象をマスティングと呼ばれています。

この現象はブナの繁殖戦略の1つと考えられおり、その要因として以下の説が考えられています。

受粉効率仮説
ブナは風媒花なので、開花量や花粉量が多いほど結果率が高くなるので、同調することで受粉の成功率を上げている

捕食者飽食仮説
種子生産の年変動を大きくし、凶作の年に捕食者の密度を下げ、豊作の年に飽食させることで種子の生存率を上げている

ブナの北限


ブナは北海道では渡島半島のみに分布し、寿都と長万部を結ぶ「黒松内低地帯」が北限となっています。

本州から連続的に分布してきたブナの森がここで途切れます。

1万年前の最終氷期、ブナの北限は東北南部でしたが、温暖化と共に北上して、現在は北進の途上とされています。

渡島半島の大平山(おびらやま)のブナの分布を見ると、標高が800mを越えて1000mぐらいまでブナが生息しており、ブナ分布の最寒限とされています。

この標高でブナが生息できるという事は、温度環境だけ見ると北海道全土でブナが生息出来る事になります。

ブナの地域差


ブナは北から南まで幅広く分布していますが、地域ごとに差があります。

特に顕著なのが葉で、北海道や東北地方の日本海側のブナはとても葉が大きく南の地域に行くほど葉が小さくなります。

日本海側のブナは生育期間の短さに適応し、太平洋側のブナは乾燥した気候に適応した為と言われています。

北限のブナの葉と、南限のブナの葉では、長さにして約2倍もの差があるそうです。

まだ幹にも地域差があり、積雪に耐えて生きてきた日本海側のブナには粘りがあり、雪の少ない太平洋側で生きてきたブナにはほとんど粘りがありません

近似種イヌブナとの違い

イヌブナの分布は本州~四国、九州なので、北海道には分布していません

ブナとの違いは以下の通りです。

  • イヌブナの樹皮は、暗灰褐色で黒っぽく、ブナの樹皮は白灰色。
  • イヌブナの葉は、側脈は9~14本。ブナの側脈は7~11本
  • イヌブナは萌芽力が旺盛で、良く株立ちするが、ブナは普通1本の幹。
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